2024.08.16
残業規制(時間外労働の上限規制)は、2019年に働き方改革の一環として導入された、労働基準法上の規定です。2024年からは、これまで免除が認められていた業種でも、残業規制がスタートしました。この記事では、残業規制の基礎知識から最新の動向、企業の対応策まで、分かりやすく解説します。残業規制について今一度おさらいし、健全な勤務環境を維持するための最新情報を確認していきましょう。
残業規制(時間外労働の上限規制)とは、従業員の長時間労働を是正するために導入された法律上の制限です。法定労働時間を超える労働(残業)に対して上限を設けるもので、2019年4月より働き方改革の一環として、労働基準法が改正されました。
2024年からは、これまで適用が猶予されていた業種にも対象が拡大されました。ここでは、残業規制の内容について詳しく見ていきましょう。
残業規制は、従業員の過剰な労働を防ぎ、健康と安全を守るために設けられた制度です。具体的には、月45時間・年間360時間の残業時間を上限とし、臨時的な特別の事情がなければ、これを超える残業は原則禁止されています。
また、臨時的な特別の事情があり、特別条項付きの36協定(さぶろくきょうてい)が結ばれている場合でも、以下の上限を守らなければなりません。
さらに、この場合でも、原則の残業時間である月45時間を超えられるのは年6回までと定められています。
残業規制の目的は、働く人々の健康を守り、ワークライフバランスを実現することにあります。長時間労働は過労死や過労自殺の原因となり得る重大な問題であり、日本の喫緊の課題でした。また、長時間労働は健康を損なうだけでなく、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化や女性のキャリア形成を阻害する要因とも考えられています。
日本の労働環境では、過度な長時間労働が常態化している現実があり、これを改善するために働き方改革の一環として労働基準法が改正され、時間外労働の上限を法律で明確に定めることとなりました。さらに、企業が労働環境を整え、働き方改革を推進することで、女性や高齢者も働きやすくなり、労働参加率の向上につながると期待されています。残業規制は、持続可能な経済成長と社会の健全な発展を目指しています。
残業規制は、まず2019年4月に大企業に対して適用が開始されました。中小企業には1年間の猶予が与えられ、2020年4月から対象となりました。段階的な導入は、企業が規制に対応するための準備期間をつくるために行ったことです。
さらに、建設業や運輸業、医療業界など一部の業種に対しては、特別な猶予期間が設けられていましたが、2024年4月からは新たに残業規制の適用対象となりました。これにより、ほとんどの企業が残業規制を遵守し、従業員の健康を確保する取り組みを強化しなければならない状況となっています。特に、従業員の勤務時間を正確に把握するためのシステム導入や労務管理体制の整備が重要な課題として、対応が求められています。
「建設事業」「自動車運転の業務」「医師」「鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業」といった一部の企業では、業務の特性に課題があることから、残業規制が5年間猶予されていました。5年間の改善期間を経て、2024年4月から残業規制が適用となっています。ここでは、残業規制が開始されたそれぞれの業界について解説します。
建設事業においては、長時間労働が常態化していることが問題視されてきました。しかし、工期の厳守や天候の影響、慢性的な人手不足など、業界の特殊性への配慮から、他の事業よりも猶予期間が設けられていました。
2024年4月からは、災害時における復旧及び復興の事業を除き、残業規制がすべて適用されます。他の事業と同様に月45時間・年間360時間の上限を超える残業は原則禁止となり、特別条項付き36協定がある場合でも、厳格な上限が設定されています。
今後の建設事業では、発注者と受注者の双方で無理のない適正な工期を確保することが求められています。また、進行状況に応じた効率的な労働時間管理が必要であり、これまで曖昧だった勤務時間を適正に把握する仕組みづくりが重要です。
自動車運転の業務は、特殊な労働環境や条件があり、社会生活に不可欠な事業です。そのため、急激な残業規制による混乱を避けるために猶予期間が設けられていました。2024年4月から、自動車運転の業務に適用される残業規制は以下の通りです。他の事業と一部異なる規制内容が設定されています。
疲労が蓄積したまま運転を行うと事故の原因にもなるため、今後は運転手の勤務時間をしっかりと管理する必要があります。企業は、運行計画の見直しや勤務時間の適切な配分を行い、安全運転の確保と従業員の健康管理を両立させる取り組みを進めています。
医師の業務は慢性的な長時間労働が常態化し、特に問題視されてきました。しかし、急患や緊急手術など予測不可能な事態に対応する必要があり、患者の命に直結する業務の特殊性からも、一般的な労働時間規制の適用が困難でした。2024年4月からは医師にも残業規制が適用されますが、一部は以下の通り適用外となっています。
医療法に追加の健康確保措置に関する定めはありますが、このように、他の事業と比べると、医師はまだ年間の上限が高く設定されています。ただし、医師自身の健康管理も重要です。医師の過労を防ぎ、患者に対する安全で質の高い医療提供を実現できるよう、業界全体で取り組むことが求められるでしょう。
鹿児島県及び沖縄県の砂糖製造業は、サトウキビの収穫期に勤務時間が集中する、極端な季節労働です。繁閑の差の激しさや24時間稼働への対応、離島での作業による深刻な後継者不足などの課題があり、他の事業よりも猶予期間が設けられていました。
しかし、2024年4月からはこれらの砂糖製造業にも残業規制が適用されます。今後は、2交代制から3交代制への移行、業務効率化のための機械設備の導入、労働力確保のための島の魅力PRや労働条件・福利厚生の整備など、さまざまな工夫を施しながら安定した製造業務の維持が求められるでしょう。
2024年4月からも残業規制が適用されないのは、「新技術や新商品の研究開発業務」です。研究開発業務は、予測できない不確定要素が多く、突発的な対応や集中作業が必要になることがあります。また、創造的な発想や試行錯誤が求められる業務であるため、残業規制による制約がプロジェクトの進行を妨げる可能性があります。このため、残業規制の適用除外となっており、柔軟な労働時間管理と成果重視の働き方が採用されています。
しかし、従業員の健康を守るための配慮が重要なことは他の業務と変わりません。企業は適切な休憩やリフレッシュの機会を提供し、過労を防ぐための健康管理体制を整備する必要があります。柔軟な労働環境を提供しながら、従業員のウェルビーイングを高める環境を整えましょう。
残業規制に違反した場合、労働基準法に基づく厳しい罰則が適用されます。まず、労働基準法第32条に違反し、36協定を締結せずに残業(時間外労働)をさせた場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。また、36協定を締結していても、労働基準法第36条第6項で定められた上限を超える残業を行わせた場合、同様の罰則が適用されます。
以前は、大臣告示による上限のみで、行政指導の対象ではあるものの罰則が無く、実質的に無制限に残業が可能な状態でした。働き方改革に伴って、2019年4月より法律による明確な残業規制の定めができたため、違反が発覚した場合は企業の信頼性に重大な影響を与えるだけでなく、法的な制裁も受けることとなっています。
コンプライアンス遵守がますます重要視される中、企業は残業規制に適切に対応するための対策を講じる必要があります。以下に具体的な対応策を解説します。
まず、企業と従業員とで締結する36協定の内容を定期的に見直すことが求められます。法定労働時間を超える残業(時間外労働)時間の上限を厳守するため、実態の勤務時間と合っているかを確認して設定することが重要です。
また、特別条項付き36協定を締結する場合、月45時間・年間360時間を超えて働かせる従業員の健康管理を考慮し、長時間労働を防ぐための具体的な対策を協定に盛り込む必要があります。自社の実態に適した対策を検討しましょう。
企業には、従業員の勤務時間を正確に把握する義務があります。働き方改革に伴い、2019年4月に労働安全衛生法が改正され、「客観的な記録による労働時間の把握」が企業の法的義務となりました。
これは、残業規制への対応としても非常に重要です。タイムカードやICカード、勤怠管理システムを活用し、出退勤時間や休憩時間を正確に記録することで、残業の実態を把握し、適切な対策を講じられます。企業には、過重労働の防止とコンプライアンス遵守を実現し、働きやすい職場環境を整えることが求められます。
企業が残業規制に対応するためには、業務の効率化が不可欠です。業務プロセスの見直しやITツールの導入により、無駄を削減し、従業員が定時内で効率的に業務を遂行できる環境を整えましょう。
具体的には、タスク管理ツールの活用や自動化システムの導入、業務フローの改善などが効果的です。業務の効率化は、長時間労働の削減と従業員の負担軽減を実現し、健全な労働環境の構築を促進するための有効な手法です。
適切な勤怠管理体制の構築は、残業規制遵守の基本です。従業員の出退勤時間や休憩時間を記録・管理できる勤怠管理システムを導入することで、適正な労働時間の把握が徹底できます。
また、リアルタイムで勤怠データをチェックし、問題があれば迅速に対応することが重要です。月次のタイミングでは、長時間労働が頻発している部門や従業員を特定し、管理職へのヒアリングや役員への報告を定期的に行うことも効果的です。
適切な勤怠管理体制を構築するためには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。ここでは、そのメリットについて解説します。
まず、従業員の出勤時間と退勤時間をリアルタイムで把握できることが、勤怠管理システムを導入する大きなメリットです。残業状況も即時に確認できるため、過剰な残業を未然に防ぐのに効果的です。勤怠管理システムによっては、一定の残業時間を超過するとアラート通知が届くなど、残業規制に対応した機能を備えているものもあります。
さらに、勤怠データが自動で集計されるため、管理者は正確な労働時間を把握しやすくなります。従業員も自身の勤務状況をリアルタイムで確認できるため、労働時間に対する意識が向上するでしょう。
勤怠管理システムは、残業時間の管理機能を備えており、法定労働時間を超える残業を適正にコントロールできます。具体的には、従業員ごとの残業時間をリアルタイムで把握し、36協定で定められた上限を超えないように監視することが可能です。
また、自社の36協定に合わせて、残業時間が上限に近づいた際にはアラートを発し、管理者に通知する機能を持っている勤怠管理システムもあります。このアラート機能を活用することで、残業規制の超過を未然に防ぎ、早期対応を促します。法令を遵守した労務管理を実現するためには、勤怠管理システムは欠かせないツールと言えるでしょう。
勤怠管理システムを導入することで、従業員の休暇取得状況を一元的に管理できるようになります。有給休暇や特別休暇の消化状況を正確に把握でき、計画的な休暇取得を促進します。特に、年次有給休暇は、2019年4月より労働基準法にて年5日の確実な取得が義務づけられているため、年5日の未消化を防ぐチェック機能がある勤怠管理システムの導入がおすすめです。
また、管理者は休暇の取得状況をリアルタイムで把握できるため、適切な人員配置や業務調整に活用でき、業務の効率化を図れます。従業員自身も各休暇の残日数や有効期限を確認でき、計画的な休暇利用が可能です。適切な休養を確保できることで、従業員のモチベーション向上にもつながるでしょう。
勤怠管理システムの導入により、タイムカードの手入力や出退勤記録の集計の手間が省け、人事担当者の勤怠関連業務を大幅に効率化できます。これによって、管理者は従業員の勤務時間や残業時間の確認、休暇の取得状況の把握をスムーズに行えるようになります。
さらに、正確な勤怠データに基づいた残業規制などのレポート作成も容易になり、経営層への報告や労務改善策の検討に役立ちます。勤怠管理システムの導入により、勤怠関連の単純作業にかかる時間と労力が削減され、他の重要な業務に集中できる環境が整うでしょう。
残業規制に関する法律の動向に注目し、適切な対応を行うことは、長時間労働を是正し、従業員の健康を守るために企業として重要な施策です。
残業時間を効率的に管理するためには、アラート機能や36協定チェック、休暇管理など、残業規制に対応した豊富な機能が備わっているJOEの勤怠管理システムの導入がおすすめです。導入後のアフターサポートも充実しており、専門知識を持つスタッフが法改正や就業規則の変更にも柔軟に対応します。
企業の働き方改革を強力にサポートするJOEの勤怠管理システムの導入をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。詳細は「勤怠管理システム」のページをご確認ください。