2024.09.18
日本の労働市場は大きな転換期を迎えています。少子高齢化が進む中、政府は高齢者の就業機会を確保するため、65歳までの雇用確保を企業に義務づける方針を打ち出しました。2025年4月からは、いよいよこれまでの経過措置が終了し、完全義務化となります。この改正は、企業の組織作りに大きな影響を与えると予想されています。
65歳の定年が義務化されるという誤解がありますが、実際には「65歳までの雇用確保」が義務化されるだけであり、企業には他にもいくつかの選択肢があります。具体的には、以下の3つの選択肢が企業に与えられています。
これらの選択肢の中から、企業は自社に最も適した方法を選択し、対応を進めることが求められます。
65歳までの雇用確保の完全義務化は、2025年4月1日から開始されます。雇用確保義務自体は以前からありましたが、これまでは以下の通り経過措置が取られていました。
このように、2025年3月31日までは、継続雇用制度の対象者を限定する基準を設けることが許可されていました。これは、老齢厚生年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられることを考慮した経過措置です。2025年4月以降は、希望者全員を対象とする継続雇用制度が完全義務化されるため、企業は適切に対応する必要があります。
2025年4月から、企業は従業員が希望すれば誰でも65歳まで働ける環境を提供することが義務化されます。これは、高年齢者の就業を支援し、少子高齢化が進行する中で社会の活力を維持するための重要な取り組みです。
日本は世界に先駆けて超高齢社会に突入しており、労働力人口の減少が深刻な問題となっています。65歳までの雇用確保義務化は、このような状況に対応するため、豊富な経験と知識を持つシニア層を積極的に活用し、社会全体の労働力を維持することを目指した施策です。
さらに、高齢者の生活を安定させるため、働く意欲のある高齢者が65歳まで継続して働ける環境を整備することも、この義務化の重要な目的です。
従来の制度では、65歳未満の定年を定めることが可能であり、多くの企業で60歳の定年が一般的でした。しかし、2006年の法改正により65歳までの雇用確保が義務となり、企業は定年延長や継続雇用制度の導入、定年制の廃止など、従業員が65歳まで働ける具体的な措置を講じることとなりました。
2025年4月からは、前述した経過措置が終了し、65歳までの雇用確保が完全に義務化されます。これに伴い、企業は長期的な視点で従業員のキャリアを考慮して、人事制度や労働条件を設計することが一層求められるでしょう。
日本の65歳雇用確保義務は、国際的に見ても柔軟な取り組みと言えます。例えば、アメリカでは年齢による雇用差別を禁止する法律があり、定年制度自体が存在しません。また、ヨーロッパでは、EU加盟国で年齢等による雇用・職業に関する一切の差別が原則禁止されており、適切な理由がなければ定年の設定が許可されていません。
各国の定年制度は法律や文化、経済状況によって異なりますが、日本のように65歳までの雇用を義務化している国は少数派です。日本の制度は、高齢者の就業機会を確保しつつ、企業の柔軟性も考慮した独自のアプローチと言えるでしょう。
企業には、65歳までの雇用確保義務を満たすための3つの選択肢が用意されています。ここでは、それぞれの選択肢について、メリットを交えて紹介します。
定年年齢を65歳まで引き上げる方法は、シンプルで分かりやすい選択肢です。この方法のメリットは、従業員の雇用の安定性が高まり、長期的なキャリア形成が可能になることです。また、ベテラン社員の知識や経験を最大限に活用できる点も大きな利点です。
ただし、人件費の増加や若手社員の昇進機会の減少によるモチベーション低下といった課題にも注意が必要です。
継続雇用制度は、定年後も希望者を引き続き雇用する仕組みです。この方法のメリットは、企業側の柔軟性が高く、必要な人材を選択的に雇用できることです。また、労働条件の見直しも行いやすいため、人件費の調整が可能です。
一方で、従業員の雇用の安定性という観点では、定年引き上げに比べてやや劣る面があります。
定年制を完全に廃止する選択肢もあります。この方法のメリットは、年齢に関係なく能力や成果に基づいた人事評価が可能になることです。年齢にとらわれない雇用制度は、企業の競争力を高め、適切に運用されれば従業員のモチベーション維持にも効果的です。
ただし、長期的な人事計画が立てにくくなる点や、評価制度の公平性確保が課題となる可能性があります。
65歳までの雇用確保の義務化に向けて、企業は従業員が安心して働き続けられる環境を整備するための準備が必要です。ここでは、企業が行うべき主要な対応策について解説します。
65歳までの雇用確保義務化に対応するためには、人事制度の見直しが不可欠です。具体的には、評価制度、昇進・昇格制度、給与体系の再設計が求められます。年功序列型の賃金制度を改め、職務内容や個々の能力に基づく公平な評価制度の導入が必要です。適切な処遇を行うため、職務等級制度の導入も有効な選択肢です。
さらに、退職金制度の再設定や、役職定年を設けるなど、高齢者がキャリアを継続できる仕組みを整えることが重要です。
65歳までの雇用確保に伴い、労働条件の再設定も重要な課題です。継続雇用や再雇用後の賃金体系を見直し、シニア層のモチベーションを維持できるような給与水準の設計が求められます。
また、高齢者の体力や健康状態を考慮し、労働時間や業務内容の調整も必要です。例えば、フレックスタイム制や時短勤務、テレワークなど、柔軟な働き方を導入し、高齢者が働きやすい環境を整備することが重要です。
再雇用制度を導入することで、65歳以上の従業員が引き続き企業に貢献できる仕組み作りが可能です。再雇用制度では、契約社員や嘱託社員として雇用するケースが多く、この際には雇用条件や賃金の設定が特に重要です。正社員用とは別に、契約社員や嘱託社員用の就業規則を作成することも推奨されます。
また、再雇用された従業員の活用方法や配置についても慎重に検討しましょう。ベテラン社員の知識や経験を最大限に活用できるよう、適切な職務設計が求められます。
65歳までの雇用確保義務化に対応するためには、単に制度を変更するだけでなく、長期的な視点での組織作りが重要です。ここでは、ベテランの能力を活かせる組織作りのための取り組みを紹介します。
企業は、65歳までの雇用確保義務化を見据え、従業員の長期的なキャリアプランを構築する必要があります。例えば、50代以降のキャリアチェンジの機会の提供や、スキルアップのための研修制度の充実が考えられます。
また、定期的なキャリア面談を実施し、個々の従業員の長期的なキャリア目標を設定し、達成を支援することも効果的です。こうした取り組みは、シニア層の従業員のモチベーション維持と能力開発の両面において、重要な役割を果たします。
再雇用制度を効果的に活用することで、ベテラン社員の知識や経験を最大限に引き出した組織作りが可能となります。例えば、再雇用された従業員に若手社員の指導や技術伝承の役割を担ってもらうと、組織全体のスキル向上が期待できるでしょう。
また、プロジェクトマネージャーや専門アドバイザーなど、これまでの経験を活かせるポジションを用意することも効果的です。
65歳まで働く従業員のモチベーション維持は、企業にとって重要な課題です。そのためには、継続的な学習機会の提供や新たな挑戦の場を設けることが不可欠です。年齢に応じた研修やスキルアップの機会を積極的に提供し、これまでのキャリアを活かせるプロジェクトや新たな役割を用意すると良いでしょう。
さらに、特別休暇や報奨金といった、年齢や勤続年数に応じた特別なインセンティブを設定し、従業員の働き続ける意欲を高めることも有効です。
65歳までの雇用確保義務化を見据えた組織作りでは、従業員の能力を最大限に活かす体制が求められます。タレントマネジメントの観点からは、従業員のスキルや経験を詳細に把握し、適材適所の人材配置を行うことが重要です。
これを実現するためには、人材管理システムやデータベースを導入し、従業員の情報を一元管理することが必要です。定期的なスキル評価やフィードバックを通じて、個々の成長を促進し、組織全体の競争力向上につなげましょう。
65歳までの雇用確保義務化は、課題でもありチャンスでもあります。企業が人事制度の見直しや組織作りの再構築など、さまざまな施策を適切に講じれば、従業員一人ひとりがいきいきと活躍できる組織作りの実現につながります。
しかし、これらの対応を全て自社で行うことは、多大な時間と労力を要する作業です。そこで、JOEの人事給与業務アウトソーシング(BPO)サービスの活用をおすすめします。企業に合わせたオーダーメイドのBPOサービスにより、人事給与業務の本質的な課題解決を提案し、コア業務への集中を実現します。
さらに、社員情報を一元管理できる人事管理システムの提供も可能です。人事部門の負担を軽減しつつ、専門家のサポートを受けられるJOEのサービスは、大きな変革期を乗り越えるための強力な味方となるでしょう。
詳細は「人事給与業務アウトソーシング(BPO)」「人事管理システム・申請ワークフロー」のページからご確認ください。