2024.09.18
令和6年6月から始まった、一定額を納税額から控除する制度「定額減税」。企業は、対象の従業員に対して、月次減税事務や年調減税事務を行わなければなりません。家族構成や収入によって支払っている税額も人それぞれのため、定額減税の仕組みは複雑に感じる方もいるでしょう。この記事では、年末調整での定額減税の計算方法や実務手順について、注意点も交えながら解説します。
定額減税は、「令和6年度税制改正法」の内容に基づいて実施される制度です。急激に物価が上昇する中で、納税額から一定額を控除する定額減税は国民の負担を軽減させます。
以下で、定額減税の詳しい施策内容について解説します。
定額減税とは、所得税と住民税から一定額を控除する施策です。会社員や扶養外のパート・アルバイトなど給与所得者の場合、所得税は令和6年6月から、住民税は7月から減税されます。一方で、個人事業主やフリーランスは令和6年分の確定申告をする際に、給与所得者同様に特別控除を受けることが可能です。
今回、定額減税が実施される背景には、世界的に急激な物価高が挙げられます。日本はエネルギーやさまざまな食材を輸入に頼っており、物価高の影響は避けられません。短期間での価格高騰に対する負担を緩和させるため、政府は定額減税を決定しました。なお、今回の定額減税は、令和6年6月から1年間と期間限定で実施される施策です。
定額減税の対象者は、以下に該当する人です。
※給与収入のみの場合は、給与収入が2,000万円以下である人。
※子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除を受ける人は、2,015万円以下。
定額減税は上記に該当する本人だけではなく、納税者と生計を一にする配偶者や扶養家族も対象です。両者は、年間の合計所得金額が48万円以下で、日本国内に居住していることが条件です。なお、内縁関係の人は対象外で、民法の規定による配偶者である必要があります。
また、扶養家族とは配偶者以外の親族で、6親等内の血族および3親等内の姻族です。扶養家族には、都道府県知事から委託された里子や、市町村長から委託された老人も含まれます。
定額減税は、対象者1人につき所得税から3万円、住民税から1万円の計4万円が令和6年の税金から控除されます。納税者・配偶者・子2人の4人家族の場合、所得税12万円と住民税4万円の計16万円が控除額です。
以下の表は、従来の所得税が5,000円、住民税が1.3万円の会社員(単身)の控除例です。
従来 | 令和6年6月 | 令和6年7月以降 | |
---|---|---|---|
給与 | 30万円 | 30万円 | 30万円 |
所得税 | 5,000円 | 0円 | 0円(11月まで0円) |
住民税 | 1.3万円 | 0円 | 13,272円 |
所得税は令和6年6月に減税が開始され、引ききれない分は翌月以降に繰り越されます。もし、年内に控除しきれない場合は、所属する企業ごとに年末調整で還付されます。企業に属する従業員は手続きをする必要はありませんが、経理や人事担当者は事務手続きが必要です。また、控除しきれないと見込まれる場合は、おおよその額が市町村から給付されることもあります。
一方で、住民税は令和6年6月分の徴収はなくなり、7月以降の11ヶ月間で減税後の税分を均等にした金額が徴収分です。(年間住民税15.6万円から1万円減税し、11ヶ月で割る)
また、所得税と住民税の非課税世帯や低所得の子育て世帯には、別途給付金が支給されます。
定額減税は令和6年6月から開始されましたが、対象者であるか、また同一生計配偶者や扶養家族の人数も、年末にならなければ確定できません。そのため、まず月次減税を行い、年末に確定した情報を基に年調減税を行います。
以下の図は、年調年税額計算の流れです。
出展:国税庁「令和6年分所得税の定額減税のしかた」
まずは、年調減税額を算出します。年末調整を行う時点での同一生計配偶者と扶養家族に人数を確認して、1人あたり3万円で合計金額を求めましょう。納税者本人と配偶者、扶養家族2人の4人家族の場合は12万円です。
次に、年調所得税額を算出します。年調所得税額とは、年末調整で算出された所得税額のことです。もし、住宅借入金等特別控除が適用されている従業員の場合は、算出所得税額から住宅控除を差し引いた金額が年調所得税額になります。
最後に、年調減税額の控除を行いましょう。年調所得税額から年調減税額を引き、102.1%を掛けた金額が、年調年税額です。年調年税額が算出できたら、通常の年末調整を行い過不足の金額を計算します。
詳しい内容については、令和6年9月頃から国税庁のホームページで掲載予定です。その都度、情報を確認しながら進めましょう。
年末調整を行う際は、年末時点での定額減税額をもとに年間所得税額の精算を行います。ここでは、対象者の選定や源泉徴収書への記載方法など実務手順を解説します。
定額減税に関わる年末調整を行う対象従業員は、令和6年12月31日時点で日本国内に居住し、扶養控除等申告書を提出している給与所得者です。
また、特殊なケースとして、以下の従業員も対象となります。
給与収入が2,000万円以上の従業員は対象外です。対象者の条件はしっかり把握しておきましょう。
ここでは、国税庁の「令和6年分所得税の定額減税のしかた」に記載されている年末調整計算シートの記入例を基に、減税額等の計算方法を具体的に紹介します。
従業員の家族構成は、同一生計配偶者と扶養家族が2人とします。1人あたり3万円が控除されるため、納税者本人を含め4人が対象となり3万円×4人=12万円が年調年税額となります。(㉔-2に記載)
次に、㉒算出所得税額から㉓住宅借入金等特別控除額を引き、㉔年調所得税額を算出しましょう。計算シートを例にすると、203,600円-40,000円=163,000円が年調所得税額となります。先程計算した年調年税額12万円を年調所得税から引くと、163,000円-120,000円=43,600円となり、この額が年間減税額控除後の年間所得税額です。
そして、年間所得税額に102.1%を乗じると、43,600円×102.1%=44,515.6円となります。100円未満の端数は切り捨てるため、実際の年調年税額は44,500円です。(㉕に記載)
最後に、㉕年調年税額と⑧税額の差額分、つまり204,810円-44,500円=160,310円が過不足分として精算されます。
年末調整した後に発行する源泉徴収書にも、摘要欄に控除額を記載する必要があります。
具体的には、年末調整計算シートを利用する場合、
㉔年調所得税額が、㉔-2年調減税額以上の場合:年末調整計算シートの「㉔-2年調減税額」欄の金額を記載します。
㉔年調所得税額が、㉔-2年調減税額未満の場合:年末調整計算シートの「㉔年調所得税額」欄の金額を記載します。
摘要欄には、「源泉徴収時所得税減税控除済額〇〇円」「控除外額〇〇円」と記載します。控除外額とは、年調所得税額から控除できなかった金額を指します。また、完全に控除できた場合でも「控除外額0円」と記載してください。
令和6年6月1日以降、退職・海外転勤・死亡などで年末調整後に源泉徴収する場合も、記載方法は同様となります。
令和6年6月から始まった月次減税は、その時点での控除対象扶養家族の人数を基準に計算されます。しかし、令和6年7月以降に結婚したり子どもが生まれたりして扶養家族の人数が変わる場合は、年末調整で定額減税を扱う上で注意が必要です。
ここでは、2つのパターンを例に注意点を解説します。
月次減税が開始された後に子どもが生まれ、令和6年12月31日時点で扶養家族が1人増えるケースです。この場合、初めの月次減税事務が終わった後に出生した家族分は、年の途中で月次減税が変わることはありません。年末調整を行う時期までに扶養控除等申告書に記載することで、年調減税額の計算に含められます。
令和6年6月時点で扶養家族だった人が、12月31日までに死亡したケースです。この場合、年の途中であっても死亡日時点で扶養家族と判定されれば、年調減税額の計算に含まれます。なお、令和6年1月1日時点で扶養家族だった人が6月の給与支払い日前に死亡した場合は、死亡日時点で扶養家族と判定されれば月次減税額の計算に含まれます。
このように、年の途中で扶養家族の人数が変わる場合は注意が必要です。国税庁の「令和6年分所得税の定額減税Q&A」にさまざまなパターンが記載されています。年末調整を行う際は、ぜひ参考にしてみてください。
上記で解説したように、定額減税の仕組みや年末調整の実務手順は複雑です。特に、年末調整は大量の書類を処理したり、記入ミスや不備の訂正が発生したりする可能性があります。
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定額減税は、政府が価格高騰による国民の負担を軽減するために決定した施策です。対象者は、1人あたり所得税3万円、住民税1万円の計4万円が令和6年6月から減税されます。
企業は従業員の年末調整を行う際に、定額減税の控除額をもとに、年間の所得税を精算する事務処理を行います。年末調整は大量の書類を処理したり不備の訂正をしたりするため、スムーズに進めたい場合は人事システムの導入がおすすめです。
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